体外受精をはじめとする生殖補助医療(ART)は、医師だけでなく、胚培養士をはじめとする専門スタッフの技術と連携によって支えられています。採卵後の卵子の取り扱いや精子の調整、受精、培養、胚の観察など、患者さまの目に触れることのない培養室の中では、さまざまな工程が丁寧に行われています。
このページでは、福岡ARTクリニックの培養室で実際に行われている作業や技術について、写真や動画を交えながらご紹介します。生殖補助医療の流れをより具体的にイメージしていただく一助となれば幸いです。
生殖補助医療(ART)に
ついて


採卵手術によって卵胞から吸引された卵胞液を顕微鏡下で検卵します。
卵子にとって管理されていない体外の環境はストレスになるため素早く卵子を探す事が重要です。卵子を見つけたら、培養液でやさしく丁寧に洗浄し卵胞液を除去してから、専用の培養液中へ回収します。
▲ 検卵の様子
提出された精液は原則密度勾配法によって処理を行います。
密度勾配法とは、精液から運動性が高く形態が正常な精子を選別・洗浄する方法です。精子の密度差を利用して遠心分離を行い、死滅精子や白血球、細菌などの不純物を除去し、良好な精子を回収します。
精液中の精子濃度や運動性によって密度勾配液を加減し、受精方法に最適となるよう調整します。


1回以上顕微授精を実施しても移植可能胚が得られなかった方、胚移植をしても妊娠に至らなかった方を対象とします。
顕微授精に用いる精子は通常、密度勾配法という比重を利用した処理方法により成熟精子を回収します。この処理方法は遠心操作を必要としますが、遠心による物理的なストレスが精子のDNA損傷を引き起こすことがあります。
これに対し、膜構造を用いた生理学的精子選択術では特殊な膜を通過できる運動性の良い精子を回収します。遠心操作を必要としないため、精子のDNA損傷を防ぐことが可能です。
膜構造を用いて選別された(DNA損傷を受けていない)精子で顕微授精することで、受精卵の質の向上、妊娠率の向上、流産率の低下が期待されています。


※先進医療
採卵当日の午後、回収した卵子と調整した精子を培養液中で一緒に培養し、各々の力での受精を待つ方法です。より自然に近い方法になりますが、運動精子濃度が低い場合や精子の運動性が弱い場合は受精が困難となるため、顕微授精の適応となります。
▲ 体外受精(IVF)の様子
一個の卵細胞質に内径4μmのガラス針を用いて一個の精子を直接注入する方法です。顕微鏡下でマニュピレ-タ-と呼ばれる機器を使用し、数μmの細かさで操作を行う非常に繊細な技術を必要とします。
顕微授精には従来のICSIとは別にPiezo-ICSIと呼ばれる方法があります。従来のICSIは吸引をかけることで卵細胞膜を破る方法ですが、Piezo-ICSIは微細な振動を与えることで卵細胞膜に穴をあけます。
そのため、従来のICSIに比べ、卵細胞膜へのダメージが少なく、受精率やICSI後の生存率が向上します。当院では、顕微授精の全例にPiezo-ICSIを実施しています。
▲ 顕微授精Piezo-ICSIの様子


また、顕微授精は機器の設定によっても成績に影響が出るため、当院では毎回同じ設定が可能となるNARISHIGE社のTAKANOMEを導入しています。
顕微授精の適応となる方
PICSIとは成熟精子の頭部がヒアルロン酸に結合する性質を利用した、良好精子の選択を補助する方法です。
顕微授精に使用する精子は形態や運動性を考慮しながら選別を行いますが、成熟度やDNA断片化の有無といった精子の質は目視での判断が困難です。
そこで、顕微授精の際に、精子をヒアルロン酸の含まれる培養液に加え、精子頭部がヒアルロン酸と結合し、運動性が低下した精子を使用する事で成熟精子を選択する事が可能となります。PICSIを用いる事で受精率や胚質の向上、流産率の低下が期待されます。
▲ PICSI実施の様子 ※先進医療
胚はタイムラプス培養器と呼ばれるカメラ付きの培養器の中で最長6日間培養します。培養器内にカメラが付いているため、外に取り出さずに胚の観察が可能となり、温度変化やガス濃度の変化に晒されるストレスがなくなりました。
また、自動的に10分に1回写真撮影を行うため、リアルタイムでの胚の観察と細胞分裂時の細胞動態を確認することができます。凍結や移植胚の選択時、その時点での胚の発育状態と発育過程の細胞動態を見比べることで、的確な判断が可能となっています。
当院では全症例をタイムラプス培養器で培養を行っています。


Embryo Scope ※先進医療
胚発育とは、受精した卵(受精卵)が細胞分裂をして成長していく過程のことです。
体外受精や顕微授精を行った翌朝に、卵子が受精したかを確認します。卵子中央に二つの前核を認めたものを正常受精とし胚移植や胚凍結の対象とします。


当院では、初期胚の評価方法としてVeeck分類を用いています。細胞の欠片(fragmentation)の量と細胞の大きさの均一性で評価します。

- グレード1 (G1)
- 割球の大きさが均一で
fragmentationがない
- グレード2 (G2)
- 割球の大きさが均一で
fragmentationの量が10%以下
- グレード3 (G3)
- 割球の大きさが不均一で
fragmentationの量が10%以下
- グレード4 (G4)
- 割球の大きさが均一か不均一で
fragmentationの量が10%~50%以下
- グレード5 (G5)
- 割球の大きさが均一か不均一で
fragmentationの量が50%~


当院は、胚盤胞の評価方法としてGardner分類を用いています。
- 1:
- 胞胚腔が全体の50%未満
- 2:
- 胞胚腔が全体の50%以上
- 3:
- 胞胚腔が完全に広がった状態
- 4:
- 胞胚腔が広がり、透明帯が薄くなっている状態
- 5:
- TEが透明帯の外にでてきた状態
- 6:
- 胚が透明帯から完全に出てきた状態


- A:
- 細胞同士が密に接着し細胞数が多い
- B:
- 細胞同士の接着が疎で細胞数が少ない
- C:
- 細胞数が非常に少ない
- A:
- 細胞数が多く互いに接着した上皮を形成
- B:
- 細胞数が少なく結合が疎な上皮を形成
- C:
- 細胞数が少なく大きな細胞が上皮を形成

新鮮胚移植を行わなかった胚は、胚の発育状態を随時確認し、今後の治療方針に沿って凍結保存を行います。
当院では、融解後に高い生存率が保たれる急速ガラス化法(vitrification法)を用いています。この方法は、高濃度の凍結保護剤に胚を浸すことで、細胞内の水分を細胞外へ移動させ、代わりに凍結保護剤を細胞内に浸透させます。これにより、細胞内に氷の結晶ができるのを防ぎます。凍結保護剤との置換が完了したら、胚を急速に-196℃の液体窒素中に投入することで、水がガラスのような非結晶の固体状態(ガラス化)となり、胚を良好な状態のまま長期間保存することが可能になります。


▲ 左:凍結タンク外観 / 中央:凍結タンク中身 / 右:凍結デバイス
▲ 凍結デバイスに胚を乗せる様子
凍結胚の融解は、凍結の際に使用した凍結保護剤を段階的に取り除くことが重要になります。最初に凍結胚を迅速に加温した融解液の中に入れ、固体状態から戻します。その後、異なる濃度の融解液に順に浸漬させ、細胞内の凍結保護剤を完全に除去し、回復培養を行います。
数時間の回復培養を行うことで、凍結前の状態へ戻ります。この過程で、一部の細胞に損傷が生じることもありますが、現在の技術では胚の融解後の生存率は約 95%と高い水準にあります。


移植に選択した胚は胚発育と子宮内膜の胚を受け入れられる時期とを合わせて子宮の中へ移植します。
胚移植は、移植直前に培養ディッシュを培養器より取り出し、温度やガス濃度が変わらないうちに素早く、胚移植専用の外径1mmの柔らかいカテーテルの中に胚を少量の培養液と共に吸い取ります。経膣超音波を用いてカテーテルの先端の位置を確認しながら、子宮内膜の状態の良い場所に胚を戻します。
▲ カテーテルで胚を吸い取る様子
▲ 子宮内膜へ胚移植をする瞬間
従来の培養液に比べ、ヒアルロン酸が高濃度に添加されている胚移植専用の培養液です。ヒアルロン酸は体内に広く存在する成分で、子宮内膜にも存在しています。子宮内膜と胚にはヒアルロン酸受容体が存在し、ヒアルロン酸を介して胚と内膜が接着します。そのため、ヒアルロン酸が高濃度に存在することで糊のような役目を果たし、内膜と胚の接着が強化され、着床率が向上すると報告されています。


胚は「透明帯」と呼ばれる膜に包まれており、着床の際にはこの透明帯から孵化(ハッチング)することが必要となってきます。透明帯が硬い場合や厚い場合などは孵化が上手くいかず、着床しにくくなる場合があるため、透明帯の一部を切開し、孵化を助けてあげます。
当院では、レーザーシステムを用いて、侵襲性なく短時間にAHAを行える、レーザーアシステッドハッチング(LAH)を実施しています。
▲ レーザーアシステッドハッチングの様子
卵子・精子・胚を取り扱うため、
培養室における
管理体制や安全対策が重要になります。
当院では、取り違えを防ぐための確認体制をはじめ、
培養機器の管理や点検など、
日々の業務の中で
さまざまな安全対策を行っています。
詳しくは「安全対策について」ページをご覧ください。



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